合成化学と計算化学の融合が拓く骨格多様化合成の新展開~亜鉛によるアルキン活性化法を開発、4系統のアルカロイド骨格の作り分けに成功~

合成化学と計算化学の融合が拓く骨格多様化合成の新展開
~亜鉛によるアルキン活性化法を開発、4系統のアルカロイド骨格の作り分けに成功~

 国立大学法人中国竞彩网大学院工学研究院応用化学部門の大栗博毅教授、北海道大学大学院理学研究院化学部門?同大学化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)の前田 理教授らは、共通の基質から複雑な三次元構造を持つ含窒素縮環骨格(四種類)を作り分ける迅速合成プロセスを開発しました。亜鉛試薬を共通の基質に作用させて環化様式を制御し、インドールアルカロイド骨格群の作り分けに成功しました。コンピューター化学と実験化学とのコラボレーションにより、意外な遷移状態や反応経路を発見し、骨格の異なる化合物群を系統的に創出するための反応設計指針や合成戦略を提案しました。様々な官能基が組み込まれた含窒素骨格群を自在に低コストで合成できるので、次世代の医薬品や農薬等の開発につながる基盤技術として、今後の更なる発展が期待されます。

本研究成果は、英国化学会Chemical Science(5月1日付)オンライン版にEdge Articleとして掲載されました。さらに Outside Back Cover に選ばれました。
URL:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2019/sc/c9sc01507h 


現状
インドールアルカロイド類は骨格の多様性に富んでおり、毒や薬の宝庫となっています(モルヒネやビンカアルカロイド系抗ガン剤等)。複雑な構造を持つアルカロイドの化学合成では、標的とした単一の分子骨格に対してテーラーメードな合成法を開発するのが一般的です。これに対し菌類や植物は、多彩な反応性をもつ共通の鍵中間体を巧みに活用して、骨格の異なる天然物群を生合成しています。近年、生合成のように多様な化合物群を創製するプロセスの重要性が認識されるようになりましたが、骨格のバリエーションを系統的に生み出す化学合成法の開発は未だ草創期にあります。アルキン(炭素-炭素の三重結合)とインドールとの反応を制御できれば、インドールアルカロイドに類似した多様な骨格群を構築できる可能性があります。しかし現時点では、アルキンの活性化には有毒な水銀試薬や高価な金触媒が汎用されています。また、金触媒による従来法では、構築可能な骨格の種類が限られており、酸の添加が不可欠という制約がありました。

研究体制
本研究は、中国竞彩网大学院工学府応用化学専攻の頼元貞巖修士、大学院工学研究院応用化学部門の坪内 彰助教、大栗博毅教授、北海道大学大学院理学研究院化学部門の恒川佳諒(M2)、市野智也博士、前田 理教授らによって実施されました。本研究は JST さきがけ(分子技術と新機能創出)、JST CREST (新機能創出を目指した分子技術の構築)、科学研究費補助金 基盤研究(B) 15H03117、旭硝子財団、アステラス病態代謝研究会等の助成を受けて実施されました。

研究成果
本研究では、インドール環とアルキンを有する化合物 (下図 1) を共通の基質として設計?合成しました。亜鉛トリフラート Zn(OTf)2 でアルキンを活性化して鍵中間体を発生させ、様々な分子内環化反応を検討しました。人工力誘起反応法(注1)で反応経路を探索し、溶媒のアルコールがプロト脱亜鉛化の過程に関与する意外な遷移状態を提案しました。実際に本系は酸の添加が不要であり、ほぼ中性条件で環化が進行する実験事実を合理的に説明できます。ジメチル基を持つ基質 (R1, R2 = Me) に対して Zn(OTf)2 をt-ブタノール中で作用させると、アルキン内部炭素とインドール2位、3位でそれぞれ環化した化合物 2, 3 が生成しました。本系では速度論的支配の生成物 3 が得られ、これを加熱するとイミン活性化によるアルケニル基の3位から2位への転位、逆マンニッヒ型反応、加水分解が進行して、熱力学的支配の2 が生成します。基質の置換基 R1, R2を改変し、2 と 3を作り分けることができました。一方、アルキン末端にメチル基を連結した基質 (R3 = Me) では、アルキン外側炭素でインドール3位との環化が位置選択的に進行し、8員環を形成した 4 を高い収率で構築できました。更に、置換基の改変 (R2 = H) により、カルボニルα位でのアルケニル化を実現し、実際に 5 を合成しました。このように、基質の置換基 (R1, R2, R3) の改変や反応条件(溶媒?温度)の最適化によって環化様式を制御し、4系統のアルカロイド骨格群の作り分けに成功しました。

今後の展開
安価で安全な亜鉛試薬でアルキンを活性化し、中性条件下で環化させるアプローチは、窒素官能基を無保護のままアルカロイド骨格を構築する一般性の高い手法となります。プロトン性溶媒中でルイス酸を作用させる系は少なく、独自性の高いインドールアルカロイド骨格形成法を開発しました。人工力誘起反応法では、遷移状態や反応経路を網羅的に自動探索できるので、常識の枠を超えた斬新で合理的な分子変換法の開発に革新をもたらすと考えられます。現時点では、共通中間体の反応性を系統的に変調?制御して、sp3炭素含有率の高い多官能性三次元骨格を自在に作り分ける合成プロセスは限定的であり、生体機能性分子群を創出する次世代の基盤技術として、更なる発展が期待されます。

注1)北海道大学の前田 理教授らが開発した量子化学計算に基づく反応経路探索法。反応する分子同士の間に人工的に力(人工力関数)を加え、反応経路を網羅的に探索し、自動的に予測する。

◆研究に関する問い合わせ◆
中国竞彩网大学院工学研究院
応用化学部門 教授
大栗 博毅(おおぐり ひろき)
 TEL/FAX: 042-388-7037
 E-mail: h_oguri(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

北海道大学大学院理学研究院
化学部門 教授
前田 理(まえだ さとし)
 TEL: 011-706-8118
 E-mail: smaeda(ここに@を入れてください)eis.hokudai.ac.jp

◆報道に関する問い合わせ◆
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 TEL: 042-367-5930
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北海道大学総務企画部広報課
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